友人S




ナマエと仲良くなったのは、一切れのパンが切っ掛けでした。
隣に座っていた私に、余らせてしまったからと、半分ほどのパンをくれたのです。
その瞬間からナマエは、私にとっての天使になりました。
それからも、彼女は私の隣に座るたびに何かと食べ物を分けてくれて、ほぼ餌付けのような形でしたが、私達の距離はぐんと近付きました。
食事の時以外も、訓練や休息時、宿舎でも段々と話すようになり、気付けば常に傍に居る大事な親友となっていました。
基本的に人当たりの良いナマエは、私の他にも仲の良いひとは幾らもいましたが、彼女は私の前でだけ、素顔を見せてくれました。
私も同じく、ナマエの前では思わず方言が出てしまう事もありました。
それほどまでに私達は打ち解け、理解し合い、心を繋いでいるのです。


そんな私達だからこそ、ナマエがライナーを好きだと気付くのは簡単でした。
訓練や食事の時、ナマエは素知らぬ表情をしながらも、目だけは頻繁に彼を見ているんです。
だけど其れは然り気無く、ごく自然に行われていて、普通に接しているだけでは解らない程度。
それに気付いていたのは、きっと私だけだと思います。
だって私は、ずっとナマエの隣に居たんですから。
それをナマエに訊ねてみると、ナマエは顔を真っ赤にして、ひどく狼狽えて。
恥ずかしそうに小さな声で、誰にも言わないでね、とこっそり教えてくれました。
それから、ナマエは時々ライナーの話をするようになり、ライナーと会話しただとか、ライナーの前で失敗しただとか、些細な事で一喜一憂する様を私に見せてくれました。
私は、ナマエが私だけにそんな話をしてくれるのが嬉しくて、ナマエの恋を応援していました。
ライナーともっと話せたらいいですね、両思いになれたらいいですねって。
時には私がライナーと引き合わせようとこっそり画策したこともありました。
それだけナマエの想いは強いと思っていたし、私もナマエに幸せになって欲しかったから。

けれど、最近のナマエは、どこかおかしいんです。
ライナーを見詰めている事には変わりないんですが、見詰めるその目が、瞳の奥が…なんだか、色が違うというか。
今までは純粋にライナーを真っ直ぐ見ている恋慕の色だったのが、数日前からは、まるでその向こうの誰かを見ているような……そんな瞳になった気がします。
もしかしたら、私の知らないところで、ナマエに何か変化があったんじゃないか、と思いました。
そういえば、最近やけに一人で居なくなる事が増えた気がします。
きっとその時に、何かあったのでしょう。
ナマエの想いに揺らぎをかけるような、変化をもたらす大きな何かが。

変化が悪いことだとは思いませんが、必ずしも良いことだとも言えません。
大した力になれていない私が口を出すことではないのですが、なんだか、嫌な予感を感じずにはいられないんです。
だって、私にすら言えないような"何か"を、彼女は一人で消化し切れるというのでしょうか?












love for a week Her friends "S"


せめて、ナマエが傷付く事のないようにと。
そればかりを願っています。